源泉営業物語:第4話 仲介業者は1円でも高く売る仕事
明大前のオフィス。小林の声は静かだが、その言葉の一つひとつが武藤の脳細胞に深く、重く刻まれていく。
武藤は、先ほど手渡された「源泉営業顧客属性表」を食い入るように見つめていた。そこには「売主」「貸主」「仲介業者」から始まり、「休眠客」「士業」「金融機関」に至るまで、9つの顧客層が整然と並んでいる。
「武藤さん。あなたが本当に『買取再販』で利益を最大化したいのなら、狙うべきはここです」
小林の指が、表の中の「売主」「貸主」「仲介業者」といった物上げカテゴリーを力強く叩いた。武藤は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
これまで自分が「お客様」だと思っていたのは、ポータルサイトから問い合わせをくれる「売主」「買主」や、物件情報をくれるはずの「仲介業者」のほんの一部に過ぎなかったことに気づかされる。
小林はホワイトボードに向き直った。そして、黒ペンで大きくこう書き殴った。
『仲介業者は1円でも高く売る仕事』
あまりにも単純な、しかし今まで一度も真剣に考えたことのない言葉だった。小林は振り返り、ペンを置いた。
「みんな、こんな単純なことを忘れているんです。不動産仲介業の本質は、売主様のために1円でも高く売ること。つまり、市場の最高値を追う仕事です。対して、武藤さんがやりたい『買取再販』は、物件を安く仕入れ、再び市場へ送り出す仕事です」
武藤は頷いた。大手時代、自分も仲介として「高く売る」ことに邁進していた。だが今は、仕入れなければ何も始まらない。
「いいですか、武藤さん。仲介業者がポータルサイトに掲載したり、他社にレインズで公開したりしている物件を、そのまま買って再販売しようとするのはほぼ無理なので、
無数の売主様の売却タイミングの変動を狙って、DNN(電話して何か無いっすか?と問いかける)営業や訪問を続け、顔を覚えてもらう愚直な営業を仕入れ業者は続けています」
「DNNは馬鹿にする人も多いですが売主様の売却事情(時期や緊急度)は動いていますよね。そして仲介業者も人間です、人と人の繋がりです。
そこを馬鹿にするようなことはあってはならないし、AIが台頭してくればするほど偉大な仕事だと私は思っています」
小林の言葉は、武藤が1年間味わってきた「敗北の正体」を正確に射抜いていた。
「仲介業者からすれば、DNNなんて毎日何件もかかってくる、訪問もすごい。
そこで『いい物件があったら教えてください』と頼むことができるのは、愚直な努力を続けた仕入れ営業マンだけです。今の武藤さんはその愚直な努力を続ける営業マンと資金力のある会社に、永遠に負け続けます」
武藤は、情けなさに顔を伏せた。自分もまさに、かつての同僚に電話しては「何か面白い話ない?」と聞いていた。それが、どれほど無策で、どれほど「主役」から遠い行為だったか。
話は変わりますがオープンハウスが良い例ではないでしょうか。普通は弱者の戦略であるランチェスター戦略をあんな大手がやるから兆円企業になるんですね。売りの仕事も買いの仕事も、多くの社員で、全国いたるところでランチェスター戦略を仕掛けていると感じます。
DNNも凄くて、月末前日なのに「まだまだ!1日あればいけますよ!」って平気で言いますからね、逞しいです笑。
巷の人並みの営業マンやエンド顧客からすれば「馬鹿じゃないか」とか「パワハラ」とか一言で片づけられてしまいますが、恐らく、不動産業が長い方や経営に携わっている方はその「営業の本筋たるや」に気づいているでしょう。
小林は再び属性表を指差した。
「だからこそ、9つの顧客層の【物上げカテゴリー】の3者に対し、『源泉営業』を仕掛けるんです。例えば、簡単なところでは空き家の所有者。
彼らはAIにも捕捉されておらず、仲介業者もまだアプローチしていない『情報の源泉』です。同じように仕掛ける数少ない業者よりあなたが一歩抜きんでればいいので、テクニック次第でどうにでもなります。
あるいは居住中の戸建てやマンション、1棟アパートやビルや空き地や店舗など、ターゲットは広げることもできます。その売主様は日々、『人生の流れ』に直面している。
人生の流れっていうのは人生のイベントや突発的な出来事、想像していた別れや、いきなり直面する悲しい別れなどありますよね。
源泉営業を使ってこういった方々と関わりを創れるだけで、競合は一括査定よりもはるかに少なくなります」
武藤は、表に記された「飛込」「電話」「郵送」「ニュースレター」という項目と各項目に細かに書かれた顧客の心情に目を落とした。
「それぞれの顧客には、色々な手法で関わりを創っていくんです。これらを組み合わせることで、あなたは情報の川上、
つまり『買取再販ができるかもしれない見込み案件』を自分の力で量産できるようになります」
小林の熱を帯びた説明を聞きながら、武藤の心の中で、止まっていた歯車がゆっくりと、しかし確実に回り始めた。ポータルサイトを眺めてため息をつく毎日は、もう終わりだ。
「小林さん、教えてください。俺が、その『見込み案件』を作れるようになるための、具体的な最初の一歩を」
武藤のその言葉に、小林は満足げに深く頷いた。オフィスに、新たな戦いの始まりを告げるような、張り詰めた沈黙が流れた。
「じゃぁ少しだけ説明しましょうか。・・・人と関わるという意味わかりますか?」
………To be continued

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お読みいただきありがとうございました。本作品はR8年のGW中のイベントとして昨今の営業事情なども合わせて書いてみました。
第3話にあるランチェスター戦略下りも本当の話で、雷が落ちたほどの衝撃を受けたことを覚えています。
私はAIが台頭するほど同じような人並み営業マンで溢れかえり、ますます源泉営業のニーズが上がると逆張りの考え方をしています。
書ける範囲で源泉営業物語は続けていきますので、これからも続きが読みたい方は↓これからも続きが読みたいと送ってください。
ご要望が少なければこのままフェードアウトします。

監修執筆 優真商事株式会社 小林

